つくでの昔ばなし

村制施行八十周年を記念して発刊された一冊。

伝右衛門サとたぬき

 作手村の小林に、むかし伝右衛門サという人がいました。あるばん、伝右衛門サがいろりばたでなわをなっていると、うらの山で、
〝ポンポコ ポンポン〟
と、たぬきの腹づつみの音がします。そして、何やらうたっているようです。そっとうらぐちまで行って耳をすますと、たぬきは、
「伝右衛門サが でんつくだ。」
〝ポンポコ ポンポン〟
とやっているのです。
「たぬきのやつめ、わしをからかいにきたな。」
 そう思った伝右衛門サは、
「そういうやつがでんつくだ。」
とやりかえしました。
 すると、たぬきはもっと大きく、
「伝右衛門サが でんつくだ。」
〝ポンポコ ポンポン〟
とやりかえします。
「伝右衛門サが でんつくだ。」
〝ポンポコ ポンポン〟
「そういうやつが でんつくだ。」
と何回もやっているうちに、伝右衛門サは、
〝こりゃァ 大変なことになった〟と気がつきました。
「たぬきと呼ばりっこして負けると、死んでしまう。」
と村一番のもの知りの与作じいサがいっていたことを思いだしたのです。
「負けてなるものか。」
 伝右衛門サはがんばりました。のどがかわいて、ヒリヒリしてきました。たぬきが、
「伝右衛門サが でんつくだ。」
〝ポンポコ ポンポン〟
 とやっている間に、急いで茶がまの湯を飲んで、
「そういうやつが でんつくだ。」
とやりました。
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 何百回もやっているうちに、とうとう茶がまは、からっぽになってしまいました。たぬきと呼ばりっこをしながら、うらへ出て、つるべで井戸水をくみました。つめたい水を飲みながら、のどがいたいのをがまんして、
「そういうやつが でんつくだ。」
とがんばりました。
 何百回、何千回やっても、たぬきはちっともやめません。頭がクラクラして、目がグルグルまわりはじめました。
「もうだめだ。」
と思いながら、最後のがんばりで、
「そういうやつが、でんつくだ。」
と、さけんだとたん、たぬきの声と腹づつみがバタッとやみました。
 伝右衛門サは、ヘタヘタと井戸ばたへすわりこんでしまいました。夜があけてから見ると、ひとかかえもある大だぬきが、腹の皮をやぶって、血まみれになって死んでいました。